環境色彩研究会からのお知らせ

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2013年2月18日(月) 景色通信Vol.47『鉄人の立つまち』

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景色通信Vol.47
『鉄人の立つまち』

 車窓から偶然みつけたその物体は、何だろう。JR新長田駅前の広場で目に飛び込んでくる大きな影。確かめずにはいられなくなって途中下車した。18メートルの巨体に近づくにつれて、心は少年時代へと向かう。あの「鉄人28号」の全体像が、ショッピングセンターとマンション群のあいだに現れる。
 1995年の震災からの復興シンボルとして、昭和30年代の懐かしのヒーローは、現代に原寸大で蘇った。作者の地元である神戸のNPO法人プロジェクトが、安心や希望と未来を想う市民の気持ちで、モニュメントとして復活させたのだ。夜の街にライトアップされて浮かび上がる鉄人も、さぞ勇ましいのであろう。大地震という自然災害だけでなく想定外の事故であっても、きっと正太郎少年と鉄人がみんなの街のために、被害を最小限にくい止めてくれる、そう願わずにはいられない今日この頃である。そして経済的波及効果は、見物客による現地での買い物や飲食への消費が、大きく向上したということを地元の大学研究会が報告している。ご当地ヒーローが街全体に活気を呼んで欲しい。これから未来へはばたいてゆく子供たちの夢をかなえるためにも、立ち上がれ鉄人!(加藤進久)


その存在は街の人にも訪れる人にも頼もしい。


街路灯もこのとおり!鉄人の姿はそこかしこに。


それは鋼鉄製でアニメの世界そのままの18m。


自動販売機にも鉄人プロジェクトの文字が!

2013年2月12日(火) 景色通信Vol.46『朝イチで市場へ』

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景色通信Vol.46
『朝イチで市場へ』

 大阪庶民の台所といわれる黒門市場へ、朝一番で直行した。地域の食文化は、流行や人気なんぞに左右されないし、長い歳月を経ても変わることはない。
サンフランシスコやシシリー島などを巡った時にも、たいていは市場に立ち寄って町のエキスを感じ取ることにしている。
 それは早朝の時間帯のほんの数十分でもよい。小腹がふくれる程度の朝食をかねた食べ歩きの後には、心地よい市場の活気も充電できる気がするからだ。その日は休日なのに、新鮮な食材を求めて来た近所の人だけでなく、観光客の姿も多かった。私が牡蠣の浜焼きをほおばる姿につられてか、隣国から訪れているらしいカップルも後に続いた。香ばしい醤油のにおいは国境を越えて人々を引きつける。美味しそうにいただく姿とともに、食欲をおおいにそそったのだろう。
 アーケードの天井を見上げれば、魚や海老の造作物がぶら下がり、商人のまち大阪らしさを発揮している。目が眩むほどの賑やかさとコテコテな色彩の共存…。日本の文字の特長は、縦にも横にも組めることだ。たくさんのモノが溢れる商店街では、集客や誘導用の広告看板は、呼び込みの声と同様に自己主張型になる。限られた期間やゾーン内であれば、買い物客は自由な表現を楽しむゆとりも大切だと思う。(加藤進久)


「天下の台所」へ買出しに行く地元の人は多い


大阪庶民の台所としての伝統や活気は健在!


魚や蟹の色味はどれも新鮮で美味しそう


ふぐ、海老、マグロの造形看板が宙を泳ぐ

2013年2月6日(水) 景色通信Vol.45『空海の気配につつまれて』

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景色通信Vol.45
『空海の気配につつまれて』

 寺社仏閣のある地域を訪れることが多くなった。これは精神世界や祈りに対する興味だけでなく、仏の道を追求することに生涯をかけた人物への尊敬が、年齢を重ねるごとに増しているからだろう。参詣への旅に駆り立てるのは、良質な映像番組だけでなく、その寺ゆかりの偉人を深く描いた書籍からの影響が多い。鉄道とケーブルカーを乗り継いで標高1000mの地へ向かうのは、年輩の人や外国人も多く、紅葉のシーズンでも家族連れはそれほど多くはない。その昔、参詣者は誰もが山道を一歩一歩、時間をかけて登った。明治5年に女人禁制が解かれた高野山には、ひとりで訪れている外国人の女性もいた。弘法大師に少しでも近づきたいという思いで、日本だけでなく世界中からやって来る参詣者は、これからも後を絶たないだろう。
 およそ4000人が生活する高野山の町並みは、地味ながら穏やかな色調を保っている。その昔に弘法大師空海が目に留めたかもしれない、樹木の葉が風に吹かれてゆれている。赤、黄、緑の色彩が混じり合って、キラキラと生き物のように輝いて見える。地、水、火、風、空という五つの要素を心から感じとるには、まだまだ時間をかけて思想する必要がありそうだ。(加藤進久)


ひとりの修行僧であっても神々しいお姿だ


燃えるような紅葉の色が冴える六角経蔵


海鼠塀が通りをリズミカルに彩る高野の町


その昔、女人はこの辺りから遠くの伽藍を拝んだ

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